「佐助、何をやっているのだ?」

いつも通りに団子を頬張って何とも至福そうに廊下を歩く旦那は、俺の苦労も知らず呑気にそう言った。
風が舞う中、枯れ葉をかき集めるは不毛。
その位、教養のない俺でも分かってるし、と言うかそもそも枯れ葉掃除は忍の仕事じゃない。
俺の行動する所以は

「旦那が頼んだんでしょ」
「某が?…落ち葉掃きを?」
「…うーわ、俺様泣きそう」

話はほんの半刻前に始まる。

「佐助佐助、見てみろ、今日は風が強い」
「え、風を?」

天井裏からすとんと旦那の横に着地。
さすが俺様、位置、音共に天才的…なんてね。

「ほら、綺麗だろう?」
「あー、確かに」

風は其れだけを目にすることは出来ないが、なる程、これなら。
舞い上がる紅い枯れ葉。
確かに綺麗、だけど

「片付け、面倒」

「そうか?」

独り言のつもりだった。
しかしまるで何かの動物のように耳聡い主には聞こえてしまったみたいだ。

「旦那、枯れ葉の掃除なんてしたことあるの?」
「掃除、という面目ではない」
「なんだ」
「準備、という意味ならある」
「へ?」

「焼き芋」

「や…焼き芋!?」

一気に脱力。
あぁだからさっきから目が爛々と輝いてたってわけね。

「落ち葉を見ると、どうにも焼き芋ばかり目に浮かんで…
あぁ、腹が減ってきた」
「何だかなぁ、旦那は」
「佐助、某、食べたくなってきた」

きらきらした笑みで見つめられて、流石に俺もたじろいだ。
これは、用意するしかないだろう。


で、今に至る。


「あー」
「あーじゃないでしょ!旦那ねぇ、
鶏じゃないんだから半刻前の話を忘れな…」
「いや」
「何?」
「某が食べたいと言ったのはこれ」

掌に乗せられた団子を指差す。

「え、話が繋がらないんだけど」
「ほら、花より団子と言うだろう?だから紅葉を見ていたら…」
「待った!紅葉は花じゃないよ旦那!」
「それは、まぁ」
「しかも団子食べたいなら紛らわしい言い方しないでよ」

はぁ、すっごい疲労感。
勘違いして、無駄な事して、今日は厄日か何かかもしれない。

「某、見るなら舞い散る紅葉の方が好きでござる」

追い討ちかけられた!

「確か百人一首にそんな歌があったなぁ」
「嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけり…でしょ?」
「佐助良く覚えていたな」

実はこれもほんの数刻前に旦那が竜の一文字に浮かれて、紅い紅葉は某で竜は政宗殿だ、と騒いだから覚えているんだけど。
俺は竜、竜と嬉しそうにはしゃぐ旦那を見て少しジェラシー感じたりしてたっけ。

「紅葉が某で竜が政宗殿、山は緑色だから佐助だ」
「あれ、覚えてたの?」
「何を?」
「…ん、いや何でもない」

文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど、旦那の言葉から俺の名前が出たからやめにした。
こんな小さな事だけど、嬉しくなる自分がおかしくて少し笑ってしまう。

“結局俺も甘いからねー”

旦那が奥州の竜に拘る様に、何だかんだで俺は旦那贔屓だから、些細な事で喜んだりもする。
そんな毎日に、俺は満足しているんだ。





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