城に攻め入る。
目的はもちろん織田軍の打破だが、思った以上に敵兵の数が多く、
どちらかと言えばこちら側がやられそうな勢いだ。

ちっ、雑魚でも数がいるのは厄介だな

そろそろ体力が厳しい、どこか休める所はないかと辺りを見回す。
ない。
ないついでにどうやらこの部屋には味方軍は自分しか残っていないようだ。
四面楚歌…とか中国の古事があったか。
気の焦りが現れたのか攻撃に隙が出来る。
不意に斜め後ろからの気配を感じて振りかえると、頬に柔らかい感触。

「っ!?」

思わず3・4歩引けば、高いはずの自分の背を遥かに超える、男。
眩しい黄昏の髪でさらに大きく見えるそいつ。


「慶次!?」


名前を呼ばれたのが嬉しいのか、にか、と顔を綻ばせる。

「お前…っ、人が見てる中で何を」

衆人環視の中、しかも真面目な戦場の中でこいつは。
そうだ、そういえば体力がなかったのだから今こいつに会うのは最悪じゃないか。
それなのに俺は何故、軽い安堵と高揚感を覚えているんだ!?

「何ってキ…」
「言うな!」

慶次の顔目掛けて銃を乱射するが、動揺しまくりの手で標準が定まるわけがない。

「連れねぇな、ピンチだと思って来てやったのに」
「お前さんが来て危険度が跳ね上がったぜ」

はは、違いねぇ、と笑って巨大な二又矛を掲げる。
そしてさっきまでと打って変わった凛々しい声でこう言った。

「雑賀衆の頭は俺が討ち取る。だからお前らは別の部屋に行け!
敵を殲滅してこいっ」

その声に圧倒されて敵兵たちはこぞって部屋から出て行ってしまい、だだっ広いには俺と慶次の二人が残された。

「…どういうつもりだ、慶次」

慶次の元へ歩み寄ろうと歩を進めると、刹那、風を切る音。
俺の体が壁にぶち当たる。
慶次の手から伸ばされた二又矛の間の部分に俺の首が辛うじて入っている状態、つまり、俺が動いても慶次の手が動いても…死ぬ。
さっきの発言は本気だったのだ、と今更に思う。

「久々に会ったんだ、何か言う事あるだろうよ」
「へ?」

先程の重々しい雰囲気は何処へやら、俺にかけられた声はいつもの―ーいつもと言うと何かおかしな感じだがー―慶次だった。

「へ?、じゃねぇよ、あんたがここに攻め入るって聞いて飛んで来たんだぜ?
なんで報せてくれなかったんだ」

あぁだから敵兵が以上に多かったのか。
お前さんのせいか。

「報せてどうする!敵同士じゃないか」
「あぁ、もう」

童の様に地団駄を踏む。

「もう、じゃないだろうが」

呆れ声を出せば首に纏わりついていた矛が外される。
そういえばまだあったのな、これ。

「孫市っ」

ぎゅう、と大男に一方的に抱き締められれば冗談抜きで苦しいのだが、
慶次の仕草があまりに必死なので少しおかしく、なされるがままにしておいた。

「生きてて良かった」
「ほんの少し前、お前さんが殺そうとしてたけどな」

苦笑混じりにそう答えれば

「違う、雑賀衆の頭領が死んだって噂が流れてたんだよ」

ときた。俺の名前も有名になったもんだ。

「俺は死んじゃいない、死んでたら今ここにい…っ…ぁあっ」

抱き締める事を止めた慶次は、今度は俺の腰に片手を舞わしてもう一方で胸の辺りを撫でだしたのだ。

「慶次、まさかここで…」

ヤる気じゃねぇだろうな

「もう我慢利かない」

撫でまわしていた手が服の下に入って直接胸の飾りに触れた。

「ひっ…」

軽く足が滑って転びそうになるのを腰に舞わされた慶次の手が食い止める。

「腰、細いな」
「それ…褒めてねぇぞ」
「いや、正直な感想。丁度良い。」

何がだよ。
慶次がぐい、と俺の腰を引っ張るので服の下に手を入れられる時に半ば脱がされていた上着が畳の床に落ちた。
そのまま洋服をたくしあげるので、肌が外気に触れる。

「なされるがままだな」
「…抵抗する気も失せる」

嘘。

慶次が俺に会って嬉しいのと同様に、俺だって嬉しいのだ。
口にはしないのがお約束だから軽くあしらってやるけど。

「ちょったぁ抵抗してくれた方が良いんだけどねぇ」

途端に口付け。
口付けと呼ぶには些か荒々しいそれに俺は怯むと、容赦なしに舌が入ってて来る。

「んっー…」

息苦しさに思わず手を突っ張れば慶次の目が笑った。

「っつ!?」

俺の口を侵すのはやめず、手が下へと侵入する。
しかも片手は依然俺の腰を掴んだままで、逃げ場がない。

「抵抗する気ないんじゃなかったのかい?」

いつの間にか離された口から出る言葉。
慶次は水を得た魚のように得意気にほほ笑んでいる。
そんな奴を見て自然と和やかな気分になる俺も、駄目なのだろうか。

「…朱」
「何が」

慶次の視線が俺の腰まで落ちるのでつられて見る。
あぁ、これか。

「別に意味はねぇよ」
「あんたに意味はなくとも誘われてる様に思えるねぇ」

言い終えるか終えないかのタイミングで下履きごとズボンを引き剥がすが、ブーツを履いているのでそこで止まる。
普通に脱がされるより恥ずかしかった。

「ごめん」

順番間違えた、とばかりに軽々と俺を抱えあげると、丁寧に畳に座らせた。
今度は自分でブーツを脱ぐ。

「え?」
「お前さんにやらせると何されるか分からない」

実は服を脱がす時に当たった指、慶次の大きくて優しい指に感じてしまい、疼いていたのだが…まさかそんな事は言えまい。

「本当に細いねぇ」

腰を撫でられれば

「あぁ…っ…」

我慢の糸が切れる。
俺だって、戦に出向く度に何故だか会っていたお前さんの顔が最近見えなくて、心に風穴があいた気がしてたんだぜ、慶次?

「ひぁ…っ…ちょ…けぃ…じ…!」
「何?」

愛撫が激しすぎる。
口で体に跡をつけられ、片手は胸、片手は下では俺に逃げ場がない。

「手加減…しろよ…な」
「…悪いけど無理」

逆に激しくなる。

「駄目っ…ぁっ…ぅあっ」
「え、今何って言った?」

喘いでただけですが。

「ら?」
「ひぁ…っ…っえ?」

質問する時くらい手を止めてくれれば良いのに。

「ら…めって言った?」
「ふぁ…らめ?」
「違うなぁ…」

ほだされた体が別の快楽を求めているのか、何やら考える慶次の顔が歪んで見える。
どうやらそれに気付いたらしく、慶次の手が俺の恥部へと伸びるのが分かった。

「っつ…痛っ…」
「泣くなよ」

泣きたくて泣いてるわけじゃない。自然に涙が出るんだ。
俺の涙を慶次が舐めとる。

「っ…やぁ…」

何をされても感じてしまう。

「やだって言われても、無理だねぇ」

ぐいぐい指が入ってくる感触。普段じゃありえない内側からの刺激ーしかも久しぶりのーに意識が飛びそうになる。

「…ん…ぁあ…も、駄目っ」
「それだ!」
「…っぁ…なに…?」

喜々とした表情で指を押し込んでくる。

「…ぁぁああっ!」

丁度良い所に指が当たった。いよいよ何も考えられなくなる。

「だめ、がらめ、に聞こえる!」
「くぅ…っあ…あっ…ん」

何を言われても反応出来ない、とにかくこの熱を…からだにこもる、ねつを。

「…ふぁ…あっイ…イくっ…!!」

身体が痙攣して慶次に凭れかかる形になった俺を抱き留めて、改めて言う。

「だめって言ってるのがらめに聞こえる」
「…っ、方言だ。格好悪いから極力抑えてたんだけどな」

一度女に笑われて以来使っていなかったのだが。

「それが今気持ち良すぎて…」
「言うなっ!」

本当に慶次は恥ずかしい言葉も行動も平気でする。
その突拍子のなさに怯む事が多いけど、分かりやすくて潔くて、俺は嫌いじゃない。
俺は多少捻くれているからむしろ憧れているくらいだ。

「あ、朱」
「朱って…さっきお前さんが…」
「違う違う、髪を結ってる紐が朱いなぁって」

そう言えば、そうだったか。

「やっぱり朱好きなんだねぇ」
「いや、だから別に好きってわけじゃ」

言葉半ばに頭を抱き抱えられて髪に触られる。
必然的に俺の顔が慶次の胸に押しつけられる状態になれば、慶次の心音が聞こえる。
案外早かった。

「俺は好きだねぇ。己の義を通す色だから、ぴったりじゃないか。
……好きだ、孫市」

真剣な顔、真剣な目、真剣な声。
俺だって

と、突然爆音が聞こえた。
地響で必然的に体が跳ね上がる。

「…近くに来てそうじゃないか、これ」

さしずめ俺の軍が後退しているんだろう。
しかし敵にしろ味方にしろ、この状況を見られるのはちとまずい。
…いや、凄くまずい。
焦っているせいで色々とてこずったが、とにかく服を正すと投げっ放しになっていた銃剣を掴んだ。

「早く逃げろ」
「あれ、俺を討ち取るとか言ってなかったか?」
「冗談言ってる場合か!」

俺はそのせいできっと後から周りに叩かれるんだからな、と言わんばかりの表情で俺の背を押す。
ここは2階、降りられない高さじゃない。
そう判断すると、急いで小さな窓の周りの壁をぶち抜き、外へ飛び出す。
同時に部屋に兵がなだれ込んで来るのを感じた。
矛を構える慶次を後ろ手に見て、一言残す。

「愛してるぜ、慶次」

慶次が振り返った気がした。






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ああもう、何から突っ込んで良いやら……!!(恥)




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