「お疲れ様」
「……けい…じ?」

ぼろぼろになって、裏道を歩いていたら、都合よく現れた男。
派手な髪に派手な服装で、よくもまぁ隠れられたものだと感心したのもつかの間。

「…え、何でお疲れ様…っておい、まさか見てたのかよ!?」
「偶然だけどな」

にか、と悪戯っぽく笑った慶次に俺は盛大な溜息で返事を返した。



[つかの間の休息]



「あんたは優しいねぇ」

慶次が泊まっているという宿につき、ついでに俺も泊まる事にした。
慶次の好みか、はたまた松風を置いておくるだけの馬屋を考慮したのか、少し値がはる豪華な宿だった。

「女の子にはいつもそうなの」
「俺には冷たいじゃないか」

盃に手酌で酒を注ぎながら、じっとこちらを見つめてくる瞳を睨み返す。

「女の子、っつっただろ」

盃の中は、すぐに空になる。
酒を飲んだのはかなり久しぶりだった。
少し手が震えるのは、流石に飲み過ぎだろうか。
畜生、瓶が歪んで見える。

「大して強くもないのに今日は早いねぇ」
「ん?あぁ…」

上手く掴めなかった瓶を慶次がつい、と遠くへ押しやった。

「何すんだよ」

急に顔を上げたら、視界がぐらりと回って、ああ流石にやばいな、と実感した。
頭の中はまだ酔いに占領された気配はなかったからまだ平気かと思っていたが、これ以上飲むと許容量を越えるだろう。

「がっつき過ぎだ、久しぶりなのかい?」
「そうだよ」
「何でまた。金がなかったわけでもないだろう?」
「……おまえ、賤ヶ岳にいたんだろ?あそこで最終的に俺の事しこたま殴ってた緑色の異国の服着た女の子、いたの分かるか」
「あぁ…居たねぇ。孫、孫って言ってた子。あの子のためにあんな芝居うったんじゃないのかい?」
「まぁな。で、その子がな…ついて来てたんだよ。ここん所、ずぅっと」
「よかったじゃないか」

孫市に固定の女の子が居たなんて、俺は始めて聞いたとか何とか笑いながら、慶次は酒をあおる。
一向に顔が赤くなる気配を見せないこいつは、かなりの笊だ。というよりもはや枠か。

「馬鹿言え。あの子、まだ子供だろうが」
「昔の市とかわらない気がするけどな」
「年齢はな。でも、何ていうかな、知らな過ぎるんだよ余りにも。
俺が冗談で、秀吉は女癖悪いから気をつけろって言ったら、女癖が悪いとどうなるのじゃ?だとよ」
「はは、そりゃあ」
「だろ?育ちが良すぎるんだよ。お陰でとんだ禁欲生活だ」
「成る程ね、合点がいった」

でも流石に今日はこれで終いにしとく、と言うと、慶次は女将を呼ばわって酒を下げさせた。布団はとうに敷いてある。

「あぁ、今日は安心して寝られる」

不意にもらした言葉に、慶次はあざとくも反応した。

「何、独り寝は寂しかったのかい?」
「阿保かお前は。逆だよ逆!無知過ぎるのも悩み所だよ全く。雷の日とか一緒の布団で寝たがるんだぜ?」
「で?」
「馬鹿、決まってるだろ」

まさかそれを承諾する訳にもいかず、ついたてを立てて布団を並べて寝る羽目になった。
そんな経験は懐かしいを通り越して、合った試しがなかったから、意味の分からない緊張感で体が休まる日は少なかった。
それでもあの子は無垢で真っ直ぐで、とても放って置けなかったから手を貸した。今はもう、一人でもやっていけるだろう。
なった事もないが、どこか父のような気持ちになっていた。

(あの子は友だとか言ってたけどな)

「思えば、光秀の娘って以外に名前とか知らねぇんだよなぁ……っておい慶次!?」
「孫市、三大欲求って知ってるかい?」
「……俺は是非睡眠の方を優先したいんだが」

だからのしかかるの、やめてくれないかな。慶次はするすると腰紐を解きながら、全く聞く耳を持たない。

「残念、俺は明日には北に行こうと思ってるんだ」
「いや別にお前じゃなくても良いし!郭行けば良い話だから」
「却下」
「うわっ馬鹿……ひっ、いきなり触るな!」

布ごしに、慶次が俺の自身を擦る。
久しぶり過ぎる刺激に、自然と童貞みたいな反応になった。

「自分でやったりもしなかった?」
「馬鹿出来るか!すぐ近くに居るんだぞ!?」

へぇ、と笑いながら慶次の手がやわやわと俺を揉みしだくものだから、腰が揺れて、更に慶次に笑われた。

「……」

盛大な溜息は、是と判断されたようだった。




「うぁっ、あ……強…!」

服を全部脱がされなかったせいで、動く度に身体に絡まって動き辛い。
溜まっていると分かっていながら、精を吐く事を求めない刺激のやり方に、いい加減俺の身体は限界を迎えていた。

「くぅっ……慶次ッ!分かって、るんだろ……!?」

最初はあれ程弄っていた自身は根元をきつく縛ったまま手を触れず、際どい所ばかりをなぶってくる。
先走りが恨めしそうに敷布に染みを作っていた。
胸の飾りは、見なくても分かる程朱く熟れている。執拗に舐められ、吸われ、尖った所を爪で潰されれば誰でもそうなる。
とにかく今日は気持ちよくなるより前に、出したい。慶次は分かっている癖に。

「紐を……解け!」
「何でそれを俺に言うんだい?」

持ち上げた俺のふとももをきつく吸いながら俺の中に入れた指をくい、と動かした。

「んあぁっ……くっ、紐をッ!」
「自分で取れるだろう?」

言いながら二本目の指を強引に中に入れて俺の弱い所を突く。

「あああっ…!うぁっ、うっ…くぅっ」
「手は開いてるんだ、取りたいなら取れる。でもあんたはそうしない。何故だか分かるかい?」

指が、また増えた。圧迫感が急に増す。

「あんたは好きなんだよ、ぎりぎりまで攻め立てられるのが」
「違…!」
「自分でも賤ヶ岳で帰蝶にそう言ってたじゃないか。こう言うのも悪くない、だとか何とか」
くすりと笑う声で、腰当たりに垂れた髪が揺れてぞくぞくする。
しっかり聞いてらっしゃる、と皮肉ってやりたかったが、今の俺にはそんな余裕がない。
「何でも、良いから…はや…く!」
「はやく…何を?」
「あぁ…もうくそッ!」

慶次の腹を蹴飛ばしてごろりとそのまま回転する。驚いたらしい慶次は簡単に畳の床に転がった。

「背中痛いだとか聞かねぇからな!」

慶次に跨がって、慶次の自身を自分の秘所に宛がう。それだけでぞく、と身体がわなないた。
俺は知り過ぎる程に、この先にある快楽を知っている。それが今、欲しい。何よりも先に、欲しい。

「くぅっ、ああっ……!」

じゅぷ、と嫌らしい音をたてて先端が入れば、後は自重でゆっくりと中におさまった。

「はぁっ、…ッ」
「いきなりやるから、苦しいだろ」
「誰の、せいだッ!……うっ」

声を荒げれば腹に力が入って嫌でも苦しさが増す。

「誰のって…禁欲してたのは孫市だからなぁ」
「おまえの、その緊張感ない所が、ッ、腹立つ!」
「孫市の主観で判断するなって」

慶次は汗に濡れた顔でにこりと笑うと、いきなり俺の腰を掴んで持ち上げた。
当然、慶次の自身は少しずつ抜けていく事になる。

「ばっ、やめろ…まだはやいっ…くっっ…!」
「やめないさ、俺だって」

続きは言わないで、手の動きだけをひたすら繰り返す。気付けば俺も腰を動かしてそれを手伝っていた。

「あっ、あ…ッ、くっ…ぅっん、」

慶次の腹に手を置いて腰をずらし、俺の中の良い所に慶次の先が当たるようにすれば、身体を稲妻が走ったような感じがした。

「うっ、けぇじ…っ、下触っ」

しゅるり、と戒めていた紐を解く。そのまま慶次の手が強く扱くので、俺は喉を鳴らして身体を震わせた。

「出しなよ。あんた今日、疲れてんだろ?」
「誰のせ…わっ、ああっ、出る…い…くッ…!」

慶次が強く中を突いた瞬間、俺は久しぶりに精を吐き出した。





「濃かったねぇ」
「当たり前だろ」

翌朝目覚めた頃には慶次が全て片付けた後だった。
出すと眠くなる、と何処かで聞いた事があるが、あれは本当なのかもしれない。
そう思わせる位、ぷつんとあの後を何も覚えていない。
それで宿を出る支度をしながらこんな会話をしているのだ。

「あんなに積極的な孫市は久しぶりだったし」
「あのなぁ…お前さんがそうさせたんだろあれは。全く……何だよ、何笑って」
「いやぁ、昨日睡眠を取らなくてよかったなぁと思って」

ほら、と顎で街道の大通りを指すので見てみれば、見知った緑色の異国の服が跳ねるのが見えた。

「…まじかよ」
「まじだねぇ」

こちらに気付くと、一瞬慶次の風貌にぎょ、と一歩退いたものの、次の瞬間にはもう俺の目の前までかけ寄って来ていた。

「孫!捜したぞ!わらわを置いて何処に行っていたのじゃ」
「何処って……あのなぁ嬢ちゃん」
「わらわは孫にもっともっと教わりたい事がある!」
「はははっ、大任だねぇ孫市」

可笑しそうに何時も通りの大声で慶次が笑うので、がんがんと響いて頭を抱えた。

「馬鹿やろ、慶次、俺二日酔い」
「ふつかよい?ふつかよいとは何じゃ孫!」
かくして、俺のつかの間の休息は終わりを告げた。先の事はもう、あまり考えない事にしよう。
どうにかなるだろうと思いながらも、慶次があんまり笑うので、腹いせに精一杯殴ってやった。



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猛将伝が妄想伝☆の、正しい状況とあいなりました。ごめんなさい。
つか実際あの外伝は孫独壇場でしたね。心なしか(正しいエロ方面に)狙った台詞多かったし。相手って……ねぇ?
甘寧の「つくもんついてんのかぁ?」って台詞にも驚いたけど、結構エロだとかシモネタだとかOKなんだね無双。




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