「っ…!!」

ぞくぞく、と体の芯から快感が走り抜けて一瞬無防備になる。
それを見た慶次は中まで入れていた指を勢いよく抜くと、
そそり立った自身を孫市の秘部に宛がい、一気に貫いた。

「ああっ…!ぃ、ぃ…くぁああっ!」

衝撃で弓なりになった体を抱き留めながら、奥へ奥へと凶器のようなそれを孫市の体へ埋めていった。

「ひぁっ…、ッ、や!うぁっうわあああ!」

川底を蹴る孫市の足のせいで川の水は掻き回され、勢いに体が揺れる。
痛みはない。
だが圧倒的な圧力と熱と、そして水と、
相俟って味わった事のない感覚(或は確かに快感なのかもしれない)が渦巻いて、じっとしていられなかった。
上を仰げば広がるのは馴染みの遊郭や、宿や、質素な小屋ですらない。
辺りを取り巻くのは夜や明け方でもない。
晴天の昼、そのいかにも清々しい空の下、涼しげなせせらぎの中、自分達だけが熱情に犯されている。
それに対する羞恥心は、いつの間にか高揚感に変わっていた。

「けぇじっ」
「ん…?何だい」

あぁ、と孫市は思う。
慶次も同じだ、と。
慶次は滅多に余裕のある表情を崩さない。その慶次が多少なりとも焦っている様子を見て、少し満足した。
満足して、笑った。

「何でもない」
「そうかい」

慶次も多くは問わない。
孫市の笑顔で大体を悟ったからだ。

「あんたさ、髪、結んでた方がいい」
「…っ、え?」
「結んでない孫市は俺にだけ見せてくれれば良い」
「何だそれ」
「言葉のままさ」

もう一度疑問を問いかけようとした孫市だったが、
慶次が思いっきり激しく突いてきたので、声は全て喘ぎに変わった。

「うぁ、ずるい…ぞ、けぃじっ!」
「そうだねぇ」

適格に孫市の良い所を突いてくる慶次に身を任せながらもう一度空を見て、目を閉じた。
空はやっぱり青かった。

「けぇじ、俺っ…、そろそろ限界」

くすり、静かな笑い声が聞こえる。
慶次の同意と取った孫市は、迫りくる快感に身を委ねた。

「あぁっ、んっ…あああっ!」

孫市が果ててすぐ、慶次も孫市の中に白濁を吐き出した。





「それで、孫市は何でここに?」

濡れた衣服もそのままに、川辺に座りこんだ二人に太陽が射すような日差しを送ってくる。
この様子では数刻で乾いてしまうだろう。

「んーまぁ何だ、旅?それよりお前こそ何してんだよ」
「あんたと一緒だよ、表も裏も」

慶次の返事に孫市の顔は渋いものに変わってゆく。常に聡い戦人をちらりとみて、盛大なため息をついた。
隠していたつもりだが、分かってしまったようだ。次の戦の下見だと言う事。
慶次のように単騎で武勇を誇る事は、火繩には出来ない。
土地を知り、敵を知り、その上で期を狙って使うのが火繩だ。
孫市の場合単騎でもそこそこの働きはするが、雑賀衆をまとめるものとしてそれでは成り立たない。
だから頭領自ら下見に来たのに。
慶次が聡いのか、孫市の嘘が下手のかはこの際気にしないようにした。

「あー…その何だ、黙っててくれよ?」
「ははは、分かってる。そのかわり」
「そのかわり?」




孫市と慶次は夕方になるまで話し続け、そして別れた。次に会う時は戦場だろう。
敵か味方かも聞かなかったから、もしかしたら殺しあう事もあるかもしれない。
だがそれでも二人は振り返る事はなかった。それが乱世であるし、自分達の生きる術なのだから。
だけれども

「どうした松風」

慶次の指笛で松風が帰ってくる。
吹いてからかなり時間がかかったから、かなり遠くまで遊びに行っていたのかもしれない。
川に着いたあたりから勝手にどこかへ行っていたのだ。

(気を使ってくれたのかもな)

そんな松風がしきりに慶次の髪をくわえて引っ張っている。

「あぁ、髪飾りか」

来る時には高い位置で括っていたはずの髪は、今は何の飾りもついていない。
黄金色の髪はさらさらと風にそよいでいる。
くすり、と笑ってどこか無邪気に、戦国を代表する戦人は言葉を紡いだ。

「鉄砲使いが持っていった」




慶次の進んだ道とは違う道を、痩身の男が進んで行く。髪には赤い紐。
結ばれた髪は歩く度にふわふわと揺れる。


“例え乱世が全てを壊そうとも、逆に泰平を導こうとも、赤い血の上を歩く二人だから。
紅い絆を頼りに、また会える事を。”


男が空を仰げば、澄みきった空は夕焼けの朱色へと変わってきていた。


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書いたのは結構前だけど手直ししたから新作と言い切る。
しかし、手直し切れない何かが物凄いちりばめられている気がする。



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