「殿…か」 誰もいない部屋、開かれた障子から青白い月の光だけが差し込んでいる。 寝床の上に胡座をかいて月を見上げれば何故だか月は紅色に見えた。 「何でもう少しひねらなかったんですかね」 自分に向けて問うは、下らない事。 今日の戦で西軍は勝利を治めた。家康は死に、その配下の名だたる武将も再起は望めない。 その結果をよしとして、つい先程殿が皆の前で言い放った。 戦国の世はここに終わる、と。 左近が今思う事はその殿、石田三成の事である。 これから三成は天下人になり、終わらせた戦国の次の時代を作って行くだろう。 すべての人の殿になるのだ。 そして左近は三成の事を“殿”と呼んでいる。 左近自身が言い出した事なのだが、昼間に名もない武士が三成に対して“殿”と言うのを聞いて異常な腹立たしさを覚えたのだ。 周りの同志達を見れば、 幸村は“三成殿”と 兼続は“三成”と 慶次も“三成”と 呼んでいる。 その中で自分だけが個を表さない呼び方。 「下らない…」 そう、下らない。 気にしなければ大したことではないのに、何故だか気になってしまった。 三成が自分から離れて行くようでならなかった。 「独占欲、強い覚えはなかったんですけどね」 やはり考えるだけ下らないと思い、寝床につくと目の前に、影。 「左近…起きているのか?」 「…殿」 目の前というのは影の話で、本人は開かれた障子のすぐ側に立っていた。 「こんな時間に何か御用ですか?」 明らかに寝着の三成に何か重要な話があるとは思わないが。 「部屋の前を通ったらまだ起きてる様だったのでな」 話相手になってもらおうかと。 そう言って顔を見てくる。 元々端整でどこか近寄りがたい顔が、 月光を浴びてさらに人世離れした雰囲気を醸し出していた。 「話し相手…ですか。でもまだ他の人達も起きていたでしょうに」 「他の人達とは幸村や兼続の事か?あいつらは少し熱すぎる。 夜の話し相手には向かんな」 二人の顔を思い出したらしく、分かるか分からない程度にくすりと笑った。 少し、嫌な気分になった。 「今日の戦、ご苦労だった」 俺の返事がないのを承諾と取ったのか、三成が喋り始めた。 それを皮切りに、今日の戦略の事、倒した武将の事、これからの事を珍しく饒舌に話すので相槌をうつのが幾分大変だった。 「今日から殿はすべての民の殿ですね」 三成のらしからに饒舌に乗せられて、左近の口から先程考えていた言葉が漏れる。 「それか」 「え?」 「それが戦の後から左近がおかしくなった理由か」 バレていたのか。 主の目の鋭さに舌を巻く。 「俺が民の殿になることが…不服か?」 「まさか」 三成のかねてからの志、まさか不服などとは思っていない。思っていないのだが。 「じゃあ何だ」 「…不安、なんですよ」 下らない、とは思うのだが。 それでも三成がどこかへ行ってしまいそうで。 「お前が俺の元を離れないと誓ったんじゃなかったか」 「俺は離れないんですけど…殿の方が」 すると三成の顔が急に険しいものに変わる。 「俺が…だと?俺がどれだけお前に助けられたと思ってるんだ。 お前が側にいる事が不変というだけでどれだけ…」 それなのに左近は俺を信じないのか? 「そう…ですよね」 自然にほほ笑んだつもりだったが、無理やり感は否めない。 「っ…左近!」 気付けば三成の瞳に自分が写る程顔が近い。 それの意味するところは一つしかなくて。 「殿!?」 細い腕をがし、と掴んで顔ごと引き剥がす。 何を考えているのか、分からない。 「言葉で引き止められないなら身体で引き止めるまでだ」 「ご冗談を」 しかし瞳は俺を捕らえたまま放さない。 「冗談でこんな事はしない。俺に口付けられるのが嫌か」 返事に困る。 正直、全く意外だが…そう本当に意外だが、不快感を感じない。 ただ、三成のあまりの必死さに戸惑っているのだ。 「無言は承諾と取るからな」 言うか言わないかでまた三成の顔が目前に迫った。 「…っん!」 触れるだけだった前とは違って、今回は容赦なく舌が入って来る。 必死に歯を食いしばるも、歯列をなぞられればぞくりとなって抵抗する力がなくなり、 「ふぁっ…」 やっと開放された時にはすっかりほだされてしまっていた。 遊女あそびが盛んなのだろうか、異常に上手い。 「…っ、綺麗な顔してやるじゃないですか」 「お前、それ戦場でも言ってたな」 力まかせに寝着をはぎ取れば俺の上半身が露になる。 憶する事はない程鍛えてはいるのだが、恥ずかしい。 「…っぁ…殿っ、何を」 「一々解説して欲しいのか」 「ふぁっ…ぃ…いえ」 胸に舌が這っている。 本来なら気持ち悪くて仕方ないはずのその行為に、何故だか昂揚している自分がいた。 「あぁっ…!」 くすりと三成から笑みが零れる。 三成が俺の胸の飾りを舌で転がし始めたのだ。 「殿、おやめ…下さ…いっ」 このままじゃおかしくなる。 「やめて欲しいと本当は思っていないだろう」 「やめ…て、下さいっ…ぁあぁっ!」 一段と強く飾りを弄られれば嬌声があがる。 自分の嬌声など聞きたくはないのに。 「そう言えば左近、お前戦場でこんな事も言ってたよな?」 「…何で…すか?」 「こちらにも大筒はあるんですよ、だったか。見せて貰おう」 「…意味が違ぁっ…殿っ!」 完璧に寝着をはぎ取られ、一糸纏わぬ姿にされた。 顔は湯で上がったみたいに赤く染まっているのが自分でよく分かるので、 両腕を顔の前に持ってきて三成から見えないようにした。 「なるほど、大筒だ」 「変な事言わないで下さいっ……殿!?」 あろう事か、殿が俺のものを…口に含んだのだ。 「おやめ下さい!」 三成は最初こそちらりと目を合わせたが、すぐに逸らしてしまう。 「殿っ…ぁぁあっ!」 ぞくり、と身の毛がよだつ。 あまりに舌使いが上手いのだ。 やめさせたいと思う反面、俺自身は素直に反応してしまっている。 「あぁっ、殿!やめ…っぁ…もぅ…無理で…すっ…離れっぁぁああ!」 まさかの事に身体が硬直しきって動かない。 殿の口は俺から離れていないと言う事は…。 「…っ、申し訳ございませんっ!」 がば、と体を起こして主と顔をあわせる。 「何の事だ?」 飲み切れなかった俺の白濁が口から滴って、妖艶さが引き立つ。 「何の事って…」 「お前は俺に何も悪い事はしていない」 するりと三成が自ら寝着を脱いでいく。露になるきめ細かい肌が美しい。 そして、本当に艶めかしい。殿は俺を狂わせる。 「でも俺は殿の口に…」 恥ずかしくて続きが言えない。 「あぁ、味は悪いな」 「…」 「しかし左近のなら構わない」 くすくすと微笑む三成の様子に開いた口が塞がらない。 「それより、俺を受け入れてはくれないか?」 「え?……っ、痛っ!」 三成の指が俺の中に入ろうと伸びて来た。 身をよじって逃げようとするが、いつもの半分の力も出ないのは三成に魅せられているから…? 「力を入れるな、やりにくくなる」 「そんな事…っつ、言われっ…ても…ぁあんっ」 痛いは痛いのだが片手は身体全体を愛撫してやまないので、口から出るのは嬌声ばかり。 「ぁあ…あ…ああ」 くちゅくちゅと嫌らしい音が聞こえた。 自分が立てている音だという事が信じられない。 「音っ…が」 「音が嫌なのか、案外なれていないのだな」 慣れているわけがないだろう。 文句の一つでも言ってやろうとしたら顔を舐められた。 「っつ…んあ!?」 「傷は弱いみたいだな」 俺の顔に残った一筋の傷跡。 舐められる度に身体がぞくりぞくりと震えて止まない。 「ぁあっ、やぁ…嫌だっ、やめて下さ…っぁあ」 「そのお陰で指は入ったけどな」 「え…?」 改めて下腹部の刺激を感じる。確かにさっきより奥に入っていた。 「殿は…慣れてますね」 「さあな、そう言う左近は余裕のようだが」 くすり、また笑みが零れて指が荒々しく動き出す。 「あああぁぁっ!」 「ここが良いのか」 一度分かったそこを執拗に攻めてきて。 「くあっ、あっ、ぁあ…はぁ、ぁっ、と…の…」 刺激の強さに涙が出そうになる。 「っはぁ、左近…もう良いか?」 俺もいい加減きつい。 余裕のないその顔を見れば、どうにかしてやらなけばいけない気がする。 「はい…殿」 「そうか」 余裕のない様子が、消えた。 まさか俺に“はい”と言わせるための演技だったのか。 「気にするな、結果的に同じ事だ」 「っ…殿は!ふぁ…っぁぁあああ!」 自分の程のサイズではないにしろ、指よりは遥かに大きなものが身体を貫いてきた。 「殿、無理…です、抜いてっぇ…」 「良いと言ったのはお前の方だろう」 大丈夫さ、慣れて来るから。 三成が動き出すので、また嫌らしい音が響く。 「動か…ないで…下さ…い」 「また音か。だがそんな事言っていてもこのままじゃ左近が辛いんじゃないか?」 気付けば左近の自身はまた首を擡げていて、 三成に攻められる度に着実に勃ってきている。 「っ、じゃあ…なるべく…早く…して下さっぁぁあ!やぁぁあ!」 「おかしな奴だな。早くしろと言うからそうしたら今度は嫌なのか」 「すいま…せん。嫌、はっ…ぁ、無視、して…下さ…いっんぁっ」 またくすりと笑みが零れる。 殿は今日、よく笑うな。 性急に攻められながらそんな事を思った。 「っはぁ、…ぁ、いぁっ…と…のっ!殿!」 「何だ?」 「限界…ですっ」 必死に殿を見つめて分かって貰おうとする。さっきは色々と悪い事をしたから。 「イけ、俺もそろそろきつ…っつ、締めるな左近!」 今度こそ本気で切羽詰まった主の顔が可愛らしくて、 その頬をひとなでして俺は果てた。 「…左近?」 俺のすぐ横で三成が声をかけてくる。 結局共に眠りにつく流れになってしまった。 「何ですか…殿」 「左近を放したくないというこの気持ち、一体何と呼ぶのだろうな」 恥ずかしい事を平気で言う。 前に幸村と兼続にそんな事を言っていたが、結局似た者同士なのではないだろうか。 「…独占欲ですかね」 俺がそう思ったように、三成もそう思ったならば。 「それだと一方的過ぎないか?」 確かに双方が思っているのに独占はおかしい気もする。 しかし、それなら何だろうか。 「依存…はどうだろう」 「…依存ですか」 他のものにたよって生きること。 あぁなるほど、確かにこれかもしれない。 「それが良いかもしれませんね」 「左近もそう思うか」 三成が軽くほほ笑むので、俺も笑い返す。 さっきより自然に笑えた気がする。 互いに依存しあって生きている。相互の関係。 そう思うと何故だか今日の不安は取りさらわれ、暖かな気持ちになれた。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 左近さんは声が良い!そしていろいろセクハラ発言が多かったですね。 なぜか私の小説では乙女ですが。違うんだって、これ、唆されたんだって!当時ハマってた友人に! ―戻る―