かつん、かつん、と部屋に響き渡る金属音は不快。
さらにここが狭い地下なだけに、音はさらに反響して俺の頭をずきずきと痛ませる。


かつん


不意に音が止まった。

「良い眺めぞ、孫市」
「…るせぇ」

ククク、と嫌な微笑が纏わりつく。

「っ、一体何だって俺をここに閉じ込めた!殺せよ、刃向かったら殺す、それがやり方だろ!なのにこんなっ……」

そう、こんな鎖に繋いで地下室に閉じ込めておくだなんて、理解の限度を超える。
後ろ手に手枷をはめられ、足は部屋の隅に取り付けられた鎖に繋がれ、
首には鉄製の首輪をつけられて…逃がさないためなら手だけで充分だろうに。
繋がれた鎖は、俺がみじろぐ度にがちゃがちゃと音をならして気分が悪い。

「うぬは殺すには惜しい」
「そりゃどーも」

埒が開かねぇ。
相手に会話を成立させる気がさらさらないからだ。

「で、俺は何をさせられるんだ?もう人質としての価値なんかないぜ?」

お前が里を潰したから。
沸き上がる怒りは止めようがなく、その矛先が目の前にいるのに掴み掛かる事も出来やしない。
俺のその考えを読みとったかのように信長はせせら笑った。

「信長が愛でてやる」
「どう言う意味っ…ぐぁ」

じゃらり

首輪に繋がった鎖を引かれれば首がつれて痛みが走る。

「急くな。信長がゆっくり教えてやる、ぞ」
「そりゃありがたいね、でもごめんだ!」

じゃらっ

せめてもの抵抗。
めい一杯首を逸らして横を向く。

「ぐっ…、」

背けた顔をぐいと押される。
構造的にそれ以上周るはずのない首が激痛と体の軋みを伴いながら動いていく。

「はっ、うぅっ、痛っ」
「やめて欲しいとは言わないのか」
「…こうやって殺すつもりならもっと前に殺してだろ。
そうじゃないって事は…」

続きは言いたくない。考えたくもない。
そんな事をされる位なら…いっそ、殺して欲しい。

「ククク…」

す、と手を離して悠然と笑う。

「孫市は頭が良い」
「どーも」
「それ故、信長は好む」
「嬉しくないね」

がちゃんっ

鎖で繋がれた身体を強引に投げ飛ばされて当然の如く鎖に足をとられ躓き、バランスを崩して受け身もとれず、無様に床へと倒れた。
冷たい床の温度が頬を冷やす。

“痛い…なんで俺がこんな…”

床に倒れた身体をそのままに、瞳だけを信長に向け、あらんかぎりの力で睨んでやる。

「簡単に屈しない態度も良い」
「……」
「如何なる手を使っても墜としたくなる、ぞ」
「黙…っは!」

腹に激痛が、視界に閃光が走った。
甲冑を着たままの足で蹴られたらしい。身を丸めて悶える俺の首の鎖を掴んで強引に据わった体勢に戻した。
信長の闇色の瞳は呪いの色。
直視など出来ない。
出来ないはずなのに目があってしまえば今度はそれを外す事が困難だ。

「このまま殴り殺してくれるのか?」

自嘲的に笑って自然を装い視線を外そうとしたその瞬間、唇に違和感。

「んっ!?んーっ!」

抵抗する手段をなくした四肢がそれでもなお気持ちばかりの抵抗を示す。
今こいつ俺の口の中に…何か入れた気がする。

「ふっ…んんーっ」

気のせいじゃない。
やっぱり何か…。
容赦なく入りこんで来た舌がその何かをくい、と押して俺の口内深くへと導く。

“やばい…このままじゃのんじまうっ”

「…んっ!」

ざらり、と鳥肌のたつような舐め方をして信長はやっと俺を解放した。

「ククク…飲んだな」
「っはぁ、な…何なんだあれは」

口の端から滴る唾液を拭いもせず、取り乱して問う。
とても嫌な予感がする。

「…分かっておろう?」

まずい。
薬を使われたみたいだ。
見下す信長に少しでも怯えを見せまいと頭をあげて毅然と構える。

「震えているな」
「…っ誰が!」
「ここにうぬとわし以外に誰かいるのか?
…それともそれを望むか?」

望むものか。
見せ物にされるのだけはごめんだ。

バキィッ

鉄製の堅い靴で頬を蹴飛ばされ、

「…ぐはっ!」

腹を踏み付けられ、

「っ痛…」

あげくは頭を地面に縫い付けるようにぐいと押しつけられた。
繰り返される何種もの暴行に、意識が何処かへ飛んでゆきそうになる。
その度耳元で起きろ、とあの呪いの声で呼び覚まされた。

「うぬの身体が素直になるまでの余興、ぞ」

信長はそう言ったが、これはむしろ孫市をいたぶり、
嬲りたいがためにわざわざ効き目が遅いものを使ったのだと言っているようなものだ、と思った。

「そろそろか」

そう言うと、ほとんど脱げていた上着を乱暴に破きさってそのあたりに捨て置く。

「はっ、まだ俺は…っぁあん」

甘い声。
露わになった胸の飾りをぐりぐりと踵で潰されて、思わず声が漏れた。

「まだ…何だ?」
「るせっ、ひぁっ…あぁっ」

今度は爪先で堅くなった所を重点的に抉られて頭が白黒する。
たったこれだけでこんなに感じるだなんて、そうとう強い薬を使われたようだ。

「ぐぅっ…うぁ…は、はっ…あっ」

しばらくの間信長は何も言わずに俺をいたぶり続け、愉しそうに笑みを零していた。

「ククク…孫市、何か言いたい事はあるか」
「…ぁっ、何?…んっ」

ふと信長が数歩退いて俺を眺める。
刺激がなくなったからと言って、高ぶりがすぐに冷めるはずがない。
まるで過呼吸になったかのようにぜいぜいと必死で空気を求める。

「はぁ、はぁ、っ、はっ」

呼吸が整って来ると気付く事がある。

「…っい…あ…ついっ」
「暑いか」

こくこくとうなずいてみて、始めて馬鹿なことを言ったと気付いた。
慌てて否定すべく首を横に振るも、時すでに遅し。

「ほぅ、暑いか」
「…あ、違っ…ぐああっぁあぁ!」

服の上から俺の自身を雑に踏み付けられて、全身に何かが走る。

「やぁ…ぁあっ…違っ…」

足で押されるため全面的な刺激は得られるものの、本当に欲しい所からは外れていて、
そのもどかしさに身悶えした。
…違う違う、拒否をしなければ。
信長の思うがままに事が進む事は耐えられない。

「…やぁっ、やめろぉっ」

がしゃん。
自分の首が鎖に繋がれているのを良い事に、思い切り振り払ってその先を信長にぶつける。
思いの他長いその鎖は蛇行しつつ信長の頬を掠めた。
ざまぁみろ。

「首の鎖は、失敗だったな」

熱に犯され震えた声で精一杯抵抗して、どうせ無意味なのは知っている。
だがこの魔王の思うがままになる事だけは。
それだけは。

「うぬは自分の立場が分かっておらぬ、な」
「分かってるさ、お前さんが思うより俺は……ぁあっ痛っ」

下腹部をおざなりに蹴飛ばして発言を遮断。

「雑賀衆の何と言ったか、うぬの周りにいる奴等の名は」
「…蛍か?」
「3、4人おろう?」
「下針、鶴首、胆中…あいつらが何か?」

どうせ殺したのだろう。
今お前が浮かべている薄気味悪い笑顔で、まるで虫を殺すように。

「うぬの隣りの部屋に」
「い…生きてるのか!?」

口角をあげてクククと笑う。
必死な俺がおかしいか?

「…うぬの抵抗が激しければそれも消えよう、ぞ」
「貴様っ!!」

つかみ掛かろうとしてとどまった。熱くなるな、
あいつらが生きてるなら…それだけでも助けなければ。

「…信長、頼む」
「頼める立場か?」
「んな事分かってる!でも、あいつらだけは…」

言ってみて馬鹿だと思った。
あまりにむちゃくちゃな要求だ。

「孫市は自分を痛め付けられるよりもその方が堪えると見える」
「……」
「ならば…舐めよ」

ついと先の尖った甲冑の爪先を差し出す。
これを舐めろ…と俺に言ってるのか!?

「ふざけるなっ!」
「…」
「ふざ…け…」

くそう、俺の不用意な行動であいつらの首が飛ぶかもしれないと考えると
何も抗えない。

「どうする」

どうするか分かっている様な口調。
言いなりになるのは嫌だ。
ましてや靴を舐めるだなんて考えられない。
でも

俺のせいであいつらが殺されるのは絶対に駄目だ。

「…ちっ」

恥辱に全身を震わせながら、跪いて信長の足に舌を這わせる。
最初は少しだけ。
でもその後にそれをどうする気か何となく分かったので、次からは大胆に。
さっき俺が蹴られたからか、甲冑からは薄く血の味がした。
ぴちゃぴちゃと自分のたてる卑猥な音に何度行為をやめようと思った事か。
それでも頭にあるのは雑賀衆の事ばかりで。

「もうよい」

言うや否や舐めさせていた方と反対の足で俺を蹴散らし、仰向けに転がった身体から下帯ごと衣服を全て剥いだ。

「んっ…ふぅ…」

服を脱がされる時に布と自身が擦れてそれが刺激となる。
相変わらず薬の効果は絶大で、
先程から自身は反りあがり先走りでぐちょぐちょになっていた。

「孫市も物好きよ」
「誰のせいだっあ…ぁっ…ああぁあぁ!」

先程孫市が舐めたものが後ろにあてがわれ、ほんの少しだけ中に入れられた。

「やだ…いっ、嫌だぁっ…痛いっ」

いくら薬で曖昧になってるとはいえ、慣らしていないそこにいきなり挿れられれば激痛が走る。
かたかたと震えながら後退るも、信長に足を踏み付けられて動けなくなった。

「嫌なら望め、信長はうぬを愛でてやるだけぞ」
「…っ、誰がっ、望むか…」
「なら構わぬな」

ぐぐぐと先程と打って変わって勢いよく入り込んで中を抉る。
熱にまどろみ意識を手放そうとしようとも、冷たい鉄が中から覚醒させてそれを赦さない。

「ぐぁぁっああぁあっ…」

痛い、痛い痛い痛い。
瞳から溢れる涙で視界が歪む。
首をふって痛みを紛らわせようとしても、いつの間にか握られていた首の鎖を引かれて五体を信長に掌握された。

「あ、あっ、ぁあっあああっ!」

痛みの奥からじんわりと滲み出くるは底知れぬ快感。
まさかこんな状態で感じるなんて。

「うぬは女好きと聞いていたが、こちらの方も好きだったとは知らなかった」
「好きじゃ…なぁ…いっ!薬のせいっ、だ」

苦しい。
冷たい鉄が俺の良い所をつく度に身体が跳ね上がり、冷や汗が全身を伝う。
痛さは快楽へとその姿を変え、その気持ちよさに身を委ねてしまえば良いのに、しつこく残る理性がそれを拒む。

「くあっ、はぁっ…あぁ…あああっ!」

触られてもいない自身は限界を告げる。
最高の快感に全てを手放す瞬間、

「赦さぬ」
「はぁっん…」

それを足で塞止められた。

「くぁっあああっ!……はぁ、はぁ、ひっ、な…何っ?」

いつの間にか生理的な涙が頬を伝い、引きつって切なげに目を細める。

「屈せ。うぬの全てを捧げてみせよ」
「こ…れ…以上何を…っ」

駄目だ、もう意識が。
鉄の冷たさも己の熱がまさって役にたたず、考えるそばから世界が白んでゆく。

「欲しいなら欲しいと請え」
「あっ、あ…欲し…んあっ」
「伝わらぬ」

どうすればこの責め苦から逃れられる?
駄目だ思考が追いつかない。
もう無理だ、何も考えられない!

「…うあああっ!ひぁあぁぁあぁあっ、あ…っ!!」

精を吐き出す事も叶わず、後ろだけで達した後、その余りに強い刺激に絶え切れず、
ある種の自己防衛と言える形で意識を手放した。
何故とか、どうしてとか、思考して言い訳をつけたい事がたくさんあった。
自分で自分に説明しなければ、今迄いつでも決して譲らなかった誇りが崩れていくように感じて。
それでも俺は……そう、意識を手放すに至った時点で信長に、快楽を与える者としてのあいつに負けたのだ。

「ぅ…」
「起きたか」

気怠い身体を必死に覚醒させて辺りを見回す。
あれ。
さっきまでと景色がまるで変わっている。

「何処だ、ここ」

分かるのは横に信長がいる事だけで。
そういえば全身の拘束も解かれている。

「わしの部屋ぞ」
「…あー、お前さんの部屋かぁ…って待て、何だって!?」
「二度は言わぬ」

がば、と起き上がれば信長と視線がかち合う。
っと言うより

「…っ痛ぇ!痛い痛い…ぅっ」

今更だが全身が燃える様に痛い事に気がついた。
慌てて自分を見れば痣がかしこに出来ている。

“これが情事の痕かよ”

普通は赤いもんじゃないのか。

「おい、信長…っいて」

首を回してまた激痛が走る。
何度も首を引かれたせいか、痛みは最上級だ。
激痛に任せてそのまま身体を布団にダイブさせようかとした所を信長の手が入って助け起こされた。

「…何だって俺をこの部屋連れて来た」
「雑賀衆は返した」
「え?」

話がかみ合わないのはもう諦めるとして、今何て言った?
雑賀衆を…?

「空に返したとか言う落ちじゃないよな?」
「…不満か」
「不満って言うか…意味分からないし」

余りに唐突過ぎて素直に喜べない。

「うぬは死んだ事にしておいたぞ」
「…何だって!?」
「故、うぬには行く場所がない。死者がうろつけるのはこの魔王の元だけぞ」

分かった。
やっと意味が分かった。
やはりこいつは極悪非道だ。
雑賀衆を使って俺の死を世に報せ、俺を二度と手元から離さないようにした。
そして、怒りに燃えた雑賀衆がこの城に攻め込むのを見て今度こそ一網打尽にする気だ。
信長はきっとそれを俺の目の前でやる。
一部始終を俺に見せるために。

「信長ぁっ!」

痛みを捨てて振り上げた手はいとも簡単に信長に払われ、ついでにまた腹を蹴飛ばされて畳の上に蹲った。
もう己を縛る鎖はないのに、さっきよりも強い戒めを感じた。
人の命が、多くの人の命がこの信長の手のひらで踊らされている。
こんなの…間違ってる。

「ククク…必要なものは力ぞ」
「そのためなら何をしても良いのか」
「是非もなし」

歯を食いしばって信長を睨む。そんな奴の元にいるくらいなら。

「俺をっ…殺せよ!」
「信長は孫市を愛でてやるのみ、ぞ」
「そうかよ。じゃあ自分で死んでやる」

近くにあった懐刀を抜いて首にあてる。

「すればよかろう。出来るのなら」
「出来るさ、あぁそうだ…出来…る…」

かたかたと震えた手に今にも泣き出しそうな顔。
…出来るはずが、ない。
怖いんだ。
こんな戦国の世にいて何を今更と思われるかもしれないが、俺は死ぬ事が怖い。
何よりも怖い。
死にたくない。
だからそんな俺が自害など出来るはずがないのだ。

「うぬには出来ぬ」
「ふざけんな!そのうち俺だって…」
「その時はうぬへの興味が失せた頃ぞ。」

そうしたら真っ先に殺してやる。
信長は愉しそうに笑っていた。

「それまでは信長が愛でてやるのみ」



かつて闘志を表すかの様に爛々と輝き、燃える炎のように力強かった瞳の色は今も変わらない。
だがその炎を取り巻く環境が今、変わった。
炎は一つ取り残され、あたりは暗い闇が覆っている。
終わりがすぐそこなのか果てしない先なのか、たった一つの炎で照らす事はかなわない。


それに、そう。


その炎だって闇の中ではいつ消えるか分からないのだから。




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やっちゃった・・・・。一応誰からかのリクがあったからだからね、一応言い訳しとくと。
ま、媚薬は基本ですか。




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