「……と、言うわけで今年度の部活動予算案は滞りなく……って、大丈夫ですか会長?」 目の前で報告をしていた書記が、首を傾げる。彼に目を合わせようと顔を上げると、ぽたり、汗が机に落ちた。 季節は冬の始め。生徒会室の中は暖房をまだつけていなく、外気程ではないが一般的に『寒い』温度。 その中に、汗をかく人間がいたら不思議に思うのも仕方がないだろう。 「季節の変わり目って風邪引きやすいらしいし、もう休んじゃったら良いんじゃないですか?」 「そうだなっ……ぅっ」 ほら、やっぱり風邪でしょ、と俺の額に手をあてようとするので、やんわりと断れば、少し溜息をついて彼は部屋を後にした。 大方俺の頑なな態度に飽きれたのだろうが……違う、今回は違うのだ。 彼の足音が完全に聞こえなくなって、俺は漸く安堵の息をついた。 「ふぅ……、っ!あぁっ!」 びくんと体が震えて、両手で机を握った。 そのまま震えを堪え、手で机を押してローラーがついた椅子を机から離すと、 こんな状態にさせた張本人がようやく机の下から出てきた。 「兄さんたら、はしたないんですから」 「な、何だと……!?」 出てきたのは、弟。 副会長をしているすぐ下の弟だった。 「書記さんに気付かれそうな状況に興奮したんですか?先走りがいつもより多くて」 俺の顔を見ながら、ぺろり、と舌で何かを舐めるような仕草をして、困ったように笑った。 華奢で童顔な弟にそんなことをされると、まるで自分が犯罪者になったかのように錯覚させられる。 「ふふ、でもお陰で兄さん今にも達しそうでしたね。びくびく震えて可愛いかったですよ」 「俺が可愛いわけあるか!」 おまえならまだしも、の言葉は引っ込め、じろりと弟を睨むと、やっぱり、兄さんは可愛いですよと返された。 「っ、か、帰るぞ!」 ズボンのチャックから出されたままだった自身を、仕方なく戻そうと目をやって、愕然とした。 (な、んで、こんな) 気持ち良かったのは、この際認めよう。だが、今まで……そう、収拾がつかなくなるまで反応したことなどなかったのに。 「そのまま帰るんですか?」 「……っ」 くすり、と笑い含みに尋ねる弟の声で、顔がほてるのが分かる。 たが、生徒会室、いや学校内で出すなど、到底許せるものではない。 恥を忍んでかたく勃ちあがった自身をズボンの中へおさめると、弟がその上に掌をのせてきた。 「ぁっ、ッ」 「兄さん、こんな状態で歩いたらすぐバレるか出しちゃいますよ?」 「っ、ぁ……くぅ、や、めろッ」 「このままじゃ、電車の揺れでアウトです」 のせた掌を、ぐい、と押し付ける弟の手を振り払う。残念そうに首を傾げる弟を睨めば、また困ったような顔をした。 「何か……縛るもの、ないか」 「へ?縛るって……え、あ、兄さんあなたって人は」 「何だ!」 「いえ、これで良いなら」 するり、と弟は鞄からハンカチを出して俺の前にひざまづく。 意図は通じた様で、安心したような恥ずかしいような複雑な気持ちで天井を眺めた。 (俺は何をやってるんだ) 兄さんが昔座った、同じ席にすわりながら、俺は何も出来やしない。出来ない所か、実の弟とこんな事を……。 「ひッ!?」 ぎゅ、と布が結ばる音がして、快感が体に走った。掠れた悲鳴が口から出て、慌てて両手で口を押さえる。 それははすぐに弟が俺の裏筋を舐めたからだと分かったが、一瞬だけ俺の頭を巡った考えに、思わず顔を歪めた。 「兄さん、これ、そんなに気持ち良かったんですか?」 ぴん、と結び目を引っ張る弟の手つきに、背筋を走る何かを覚えるが、なかったふりをして首を横に振った。 そうですか、と残念そうに言いながら弟が鞄を抱えて立ち上がったので、俺も慌てて支度をし、 椅子の手摺りを掴んで立ち上がろうと…… (立て、ない……?) まさか。そんな事、あるはずかない。 ぐい、と腕は明らかに手摺りを押しているのに、体が持ち上がらない。 その事実が信じられず、もう一度試した所で弟が気付いた。 「兄さん……?」 「た……」 「た?何ですか?すみません、聞こえませんでした」 「たて、ないっ……うわっ!?」 ぐわん、と体が引っ張られる。 華奢な弟の何処にこんな力が、と思っている間に、俺の体は会長席の側にあったソファに投げ出されていた。 「もう、兄さんは何で私を煽るんですか!折角、駅までは我慢してあげようと思っていたのに」 「ちょっと待て、駅?それに煽るだと?」 「だってそうじゃないですか、私にハンカチで縛られて感じて腰砕けるだなんて、煽ってるとしか思えませんよ?」 「縛られて……そこではなっ、ぁあんっ!」 思いも因らぬ女々しい声が出て、体が跳ねる。 ズボンの上から差し入れられた弟の細い腕が、直に俺を触ってハンカチの結び目をなぞったのだ。 「ほら。兄さん、いい加減認めて下さいよ」 「誰が、認めるかっ…んぅ、くっ」 「手で口を塞ぐのも止めて下さい」 「人が、来るかもしれない」 「来ませんよ、こんな遅くなってるんですから」 頑なに手を離さない俺を見兼ねたのか、弟は諦めてちらりと外を見た。 確かに日は沈み、いくら日没の早い冬だとしても、生徒が残っているとは考えにくい時間になっていた。 (いい加減、帰らなくては) この際、後から親に遅くなった理由を聞かれしどろもどろで嘘をつくより、 今恥を忍んでトイレで済ましてしまう方がまだ自分へのダメージは少ない。 そう考えて弟を退かせようと意識を戻すと、カチャ、と金属音が聞こえた。 「な!?」 対策を思案している間に俺のベルトは外され、気付けばズボンが下げられる所だった。 「待て、やめろ!」 「やめません」 直の腰に手を触れられ、ほんの一瞬動きを止める間に、弟はズボンをさげ、下着にも手をかけて、いやらしく微笑んだ。 「兄さんのせいです」 「くっ、ああっ……ぁああああッ!」 蛍光灯がショートしたように、感じた。 瞬きを繰り返し、あ、あ、と譫言のように声をあげる自分に気付く。 「まさか、空イキしました?私まだ先を噛んだだけですよ?」 「っ、やめ、言う……っ、もう退け」 「何言ってるんですか、この状況で私が退いて、兄さんが自分でどうにか出来るわけないでしょう」 確かに、普段達した後にある倦怠感はなく、体を支配するのは熱だけで、下手に煽られた体は新たな快感を望んでいる。 (まさか俺がこんな変態だなんて思っていなかった) 品行方正であろうとしたのに。 兄よりも生徒会長らしくあろうとしたのに。 実際の己の姿は、実の弟にフェラをされて興奮し、 縛られた事で腰がくだけ、揚句に空イキで快感を感じる、ただの淫乱な最低人間だ。 (最低だ、本当にもう、何の言い訳も出来ない位に) 生徒会室というのは生徒会が仕事をするために宛がわれた部屋であり、 汚らわしい己などが淫らな行為にふけるのを許された部屋ではない。 分かっている、分かっているつもりだったのに……! 「あぁっ、はぁっ、も……っと、あぁっ!」 「奥が気持ち良いんですか?」 「あっ、い、いッ……んぁああっ」 掠れた声でなきながら、こくこくと頷き、皮張りのソファに爪を立てる。 弟の体に爪を立てないようにする配慮に、今更過ぎる偽善だと頭の中で誰かが嘲笑った。 こんな行為に付き合わせてしまった弟に謝らなければ、と何度も言葉を紡ごうとしても、 出て来るのは意味をなさない喘ぎばかり。 意味がある言葉は、更なる行為を求める嫌らしいもので、俺の頭は完全にどこかおかしくなっている。 望んだ通り奥深くを突かれ、また一段と掠れた声があがった。 気持ち悪い。どう頑張っても低い自分の声が、酷く気持ち悪かった。 「ぃ、あっや、やめ……あっ」 ソファに寝そべる俺の腰を掴み、自分はソファに肩膝をつくだけで俺を犯す弟の顔が視界に入る。 弟の顔を下から見た事などなかったから、不意に相手が誰だか分からなくなる錯覚を起こして体が震えた。 「やめ……何ですか?兄さん」 『兄さん』の部分を酷くゆっくりと、確かめるように、窘めるように、耳元で囁かれる。 (あぁ、弟だ、俺の……おとうと?) ぐわん、と頭を殴られたような衝撃を感じて、びくりと体が跳ねた。 「ひぅんッ……っ、ぁ、ぁん!」 「やめて欲しいんですか?やめないで欲しいんですか?最後まで言ってくれないと分かりません」 「やめ、……ぁ、あッ」 兄さん?と、また弟の声が響く。 兄さん、俺、兄、年長者、指導者、頼れる人、……兄さん? 頭に、欠点のない完璧な誰かが、過ぎった。 「うああああっ、やめ、ろやめろ、やめてくれっ、すまない!謝るからあっ、あっ、あああああっ!!」 びくん、と一段と体が跳ねて目を見開く俺に見えたのは、あろう事か自分の性を吐き出す瞬間で、 恥ずかしさに顔を赤くするより前に、絶望で表情を変える事すら適わなかった。 俺は弟に、何て事をさせたんだ。 守るべき存在に、大切な存在に! 「あ、あ、すまない、すまな……っ」 「兄さん、大丈夫ですから泣かないで下さい!兄さん!」 「兄と、よば……ないで、く」 え、と小さな声が聞こえた。 兄さん?と高く澄んだ声が俺を呼ぶ。あぁどうか、どうかもう兄と呼ばないでくれ。そんな資格はない。 俺はおまえに兄として最低な事をさせた! 兄は、兄という生き物は、こんな最低な行為をするものじゃない! 俺がなろうとしたのは、なりたいと思った姿は……。 「まったく、兄さんは……可愛いんですから」 ぺろ、と俺が吐き出した白濁を舐めて、にこりと微笑む。 眼前の光景が信じられず、おまえ、と言った切り二の句が継げなくなっていた俺に、弟はまた愛らしい笑顔で言葉を続けた。 「自分がやらせた、だなんて思ってます?そんなことないですよ、最初に仕掛けたのは私です」 「でも」 「私が触って、兄さんが喜んでくれるなら、私は嬉しいんです。 罪悪感とか劣等感とか、ここでは抜きです。もうここにあの人はいないんですよ」 『あの人』という言葉に喉を鳴らして、今とても口の中が渇いている事に気付いた。 ごくり、と口の中を湿らせて息をつくと、やっと今の行為に顔を赤らめる事が出来た。 「兄さん、質問です」 「何だ」 「気持ち良かったですか?」 「……っ!!」 あはは、顔が真っ赤ですよ、と、弟が本当におかしそうに笑うので、 俺も純粋に恥ずかしくなって、赤くなる顔をそっぽへ反らした。 弟の質問には、とても答えられそうもない。だって、答えたら思い出してしまう。 そんな女々しい事を考えながら、窓を見れば、闇の帳が外を覆っていた。 「なっ、今何時だ!?」 「へ?えーと、20時過ぎですね」 天井近くに掛かる壁時計を見て、それが間違っていない事を確認する。 到底学校では見られない時間を告げる時計に一瞬頭が真っ白になるが、 次の瞬間には自分も驚く程の速さで準備を整え部屋を駆け出していた。 待って下さい兄さん!と焦る声が後ろから追ってくる。 その相手が必ず追い付いてきてくれる事を信じて、俺は待つ事なく更に歩幅を広めて走り出した。 ※※※※※※※※※※※ 弟は、兄が長男とダブらせる事を分かって『兄さん』を連呼している。 そんで自分に泣きついてくれば良いと思ってる。兄は全く気付かないド天然。 な、何という定番学パロを書いてしまったんだ私は……! そ、唆されたんだからね! ―戻る―