寂漠とした砂漠の中、一人の旅人が外套をはためかせ、立っていた。 見渡す限りの砂漠に、果てしない地平線。 月は青白く、昼間の暑さを拭い去るように冷たい。それは地上を睨んで居るようにも見える。 旅人はしばし月を睨み返すように見つめると、小さく溜息をついて静かに一度瞬きをした。 ざり、と微かな音をたてて後ろを振り返ると、そこに居たのはラクダ……ではなく、一匹の奇妙な黒犬であった。 「何もないな」 「今は、ね」 旅人にとって、その犬が喋るのは当たり前のようで、驚く様子もない。 「ここには昔、国があったんだよ」 犬が首で下を見るように促したので、旅人はそれに従った。 眼下に見えるのは、朽ちて倒れた木のような物や人の手が加わったである事を匂わせる石積みであり、 確かに遥か昔、この辺りに人が住んでいた事を示していた。 「国の名と、僅かな文字が残された以外、全てが消えた謎の国がね」 「こんなに技術がある国が、文化すら残さず消えたのか?仮にもこの大陸横断路の真ん中にあるのに」 旅人は足元の石積みを蹴飛ばした。 複雑に組み合わさったそれは、びくともせず、ただ旅人の足に痛みを負わせる。 「それがこの国の謎であり、誇りなのさ」 「見知ったような口利くなぁ、おまえ」 「ごめん、最後、適当言った」 くすり、と互いに笑って、また静寂が訪れた。 「でも、確かにあったんだよ。オアシスを囲うように栄えた、活気ある王国が」 「そう、か。……でも、俺はそれを語るすべを持ってないぜ?」 「残念ながら、僕も持ってないよ」 旅人が、すとん、とその場に腰を降ろした。そのすぐ側に、犬も座り込む。 旅人は眼を擦って空を見たが、月はまだ高くに居て、夜は長そうだ。 「じゃあそれは別の人に任せるとして、俺達は寝るとしますか」 「えぇっ、ここで!?」 「語れないにしろ、何か感じとれるかもしれないだろ? この国……今や砂上の亡国となった国の、営みを」 ※※※※※※※※※※※※ この二人組、おまけをジャックしてますので(というかおまけにしかいない) 気になったらどうぞ! ―戻る―