お前の弱い所に触れたい。
強さの裏にある、弱い所に。
普く事象が一次元的でないのなら、お前もそう、思うのだろうか。
お前は私の存在を、無視出来ないと言った。私も、お前の存在は何故か特別のものである気がする。
それを弱さと、私は認める気はないが。


「お前には見えていたのか?」

倉庫へ入った所で、扉を閉めながら林冲が言った。雨音は聞こえにくくなったが、暗さはいっそう酷くなった。
明かり取りのための小窓も、外が暗過ぎて意味がない。

「何が」
「倉庫の場所」
「見えていたわけではない。予測をつけて来てみただけだ」
「それにしては…ッ」

がしゃん、と何かが倒れる音がした。

「鎌か何かが束ねてあるのを倒したな。そちら側へ行くな、反対側の奥なら座れそうだ」
「やはり見えているではないか」
「光もないのにどうやって見る。何となく気配のような物を感じるだけだ。二年も地下牢に入れられれば嫌でも身につくぞ」

納得していない風ではあったが、林冲の気配は、素直に奥へと向かった。
冠を外して髪を捩る。ぼたぼたと水が地面に落ちた。
手早く着て居る物を全て脱いで絞り、積んである荷物の上へ適当に干した。どうせ、林冲の目では何も見えない。

「林冲、濡れた服を脱げ」
「脱ぐのは良いが、置く場所がない。というより、分からん」
「絞ってから私に貸せ」

林冲の服を受け取り、私の服の隣に干した。手元が覚束なく、あらぬ方向に服を出したりするので少し手間取った。
それが終わると、私も林冲の隣に腰掛ける。ぎし、と鳴った音で林冲がこちらを向いた。

「そこに居るのか」
「ああ」
「俺には全く分からん。お前にはどの程度分かるんだ?」
「今、お前が寒そうに体を震わせたのが分かる位だ」

林冲がびくん、となった。どうやら知られたくなかったらしい。
気付かれないように手を伸ばし、林冲の頬に触れる。驚いたのか不自然な身じろぎ方をした。

「ほぅ、確かに冷たいな」
「当たり前だろうが」

滑らせるように手を首から肩へ。肩には湿った包帯があった。
結び目を手触りで探して解く。林冲は包帯が解かれているとは、まだ気付いてないようだ。

「……公孫勝、何をしている」
「濡れた包帯を取っているだけだ。どうせ傷は塞がり始めているんだろ?」
「包帯を……?それに俺は気付かないのか?」

林冲の手が、肩に触れる。そこにはもう包帯はない事を、触れて始めて分かったようだ。
目に見えていない事だけならまだしも、無風の中で体が濡れていれば、分からない事もさして問題があるわけではない。
勿論外す方の技術も重要だが。

「触れなければ分からないか?」

先程の続きで、また肩に手を置く。傷口を撫でて、手を下へとずらした。

「ここは胸」

更に下へ。

「ここは腹」

綺麗に割れた腹筋をなぞる。
まるで触れた所から、闇の中で形になっていくように。
林冲が、先程よりも派手にびくんとなって後退った。

(それ以上は下がれないがな)

おそらく、そこには柱がある。
案の定、どん、という音と小さく息を飲む音が聞こえた。

「林冲?」
「っ、先程の!先程の言葉は何だ、どう言う意味だ」 
「先程とは何だ」
「普く事象は、と、倉庫に入る前に言っていただろうが!」

声が分かりやすい位に上擦っている。
思わず笑ってしまった。

「聞こえていたのか」
「聞こえていた。あれはどういう意味だ」
「おおざっぱに言えば、自分が相手に対して思う事があれば、そ
れは相手が自分に対して思う事と似たようなものである事が多い、という話だ。それが私達にも当て嵌まるみたいだな」
「なっ……」

今、林冲は目を丸くしてほうけた顔をしているのだろう。それが見たくてたまらない。
私が人にそこまでに執着するだなんて、こんな笑える事があるか。
私を変えたのは林冲、おまえだ。

「何をする!」

林冲の肩を掴んで床に倒した。その上に逃げられないようにのしかかって、両手で林冲の手を抑えつけた。

「私も、寒いのでな」
「馬鹿を言うな、やめろ公孫勝ッ!」
「では全力で突き飛ばすなりすれば良いだろう。お前の全力を抑えつけるだけの力は、私にはない」
「うるさいッ!」

林冲の手が、寒さとは違う意味で震えていた。

「突き飛ばさないのは、拒んでいない事になるぞ?」
「違う」
「いい加減認めたらどうだ。私は恋だの愛だの友情だの、下らぬ名前をつける気はないぞ」

恋や愛と言うには純粋さが無く、友と言うには何処か似過ぎている。ただ在るという事が自然。
無意識の孤独の中にいたお前にとって、私の存在はどれだけ認め難い物か、それは分かっている。

「……それで、良いのか」
「お前はどう思っているのだ、林冲」

刹那、林冲から力が抜けた。
無音の間が痛かった。口火を切らない私は、おそらく卑怯だ。

「普く事象は、……なのだろう?」

返事は、林冲の唇に直接注ぎ込んだ。
拒むように引っ込めた顎に手をかけ、上を向かせる。ざらざらした髭をなぞって、閉じかけていた口を開かせた。
優しくはしない。いきなり舌を差し入れて、歯列をなぞる。人より尖った犬歯に、ぞくりとした。
暫く受け身に徹していた林冲が、私の顔を掴んで引き寄せてきた。
いつの間にか、掌は温かくなっていた。

「……んっ」

角度を変え、舌を絡ませる。
くちゅ、と湿った音が酷く耳についた。

「ふっ」

唇を離した時に目を開いたが、相変わらず何も見えない。どうやら林冲も同じ事をしたらしく、小さく笑う声がした。

「何も見えん」
「私も、見えんな」

先程手で通った道を、今度は舌で通る。
首から肩へ。鉄の味がする傷口は、丹念に舐めて、最後に噛み付いた。

「うっ……」

肩から胸へ。まだ反応していない突起を探して、少しだけ吸った。林冲が身じろぎして、下へ促すように腰を振った。

「嫌か」
「嫌と言うか、反応する気がしない…ッ、うっ」

舌はそのままに、掌で腹を撫でた。先程と同じように筋を丁寧になぞれば、息を殺して唸る声が聞こえた。

「腹は弱いようだな」
「うるさい、っ、それより、」
「分かっている」

先程は進まなかった腹の先へ手を進める。林冲らしい癖の薄い下生えの下にあった林冲の自身は、常人のそれより立派だった。
人のものに触るのは始めてだが、自分にする時のように扱く。少し強めに扱くと、腰が軽く浮いた。
更に強くすると、どうやら蜜が出てきたのか、私の手が少し濡れた。

「……うっ、くっ……ッ!?」

びくん、びくんと痙攣を起こしたように林冲の体が弾ける。予期せぬ刺激だったのか、あげる声に戸惑いが見られた。

「反応、したようだな」

下を手で扱きながら、止まっていた胸への愛撫を再開した。それが私のやった事だった。
先程は平らだった筈の突起は、舌で押せば跳ね返してくる程の弾力を持っていた。

「っ、知る…か、っくぅ、ふっ……うっ」

始めての事でか、上手く感じ取れないらしく、もどかしそうな声を出す。
舐めて、吸って、歯に引っかけて、弾く。全てを強くやると、林冲はもどかしさの抜けた声をあげて、乱れた。
せがむように胸を突き出すので、強く歯で押し返せば、またびくんと体を揺らして、聞いた事のない甘い声を出した。
掠れた低く声が、酷く甘く感じる。

「あぅっ、……んぁッ、うっ、おい、公孫勝ッ!」
「何だ?」
「片方ばかり、弄るな」
「全く、色気のない言い方だな」
「そんなもの、あってたまるか……うっ、くぁぁッ!あッ、くっ…ッ!」

反対側の突起を乱暴に爪で弾くと、また林冲は体を揺らした。新しい愛撫には、頗る弱いらしい。
両手で突起をぐりぐりと押し潰すようにすれば、断続的に声をあげて、私に腰を擦り付けてきた。
林冲の自身は、どうやら完全に勃っているようだ。そろそろ解放させるべきか、と思った所で悪戯を思いついた。
溢れ出した蜜を指に取って、林冲の秘所へ塗り付ける。それで林冲は、行動の意味を察したようだ。

「その……、やるのか」
「嫌か?」
「嫌と言うか、俺が、という所が納得いかん。俺は男だぞ?」
「私も男だが」
「お前の方が小柄だろう」
「そうか」

納得した体をとっておいて、素早く林冲の自身の根本を紐できつく縛る。
紐は私の髪の結い紐。冠の下でそのままにしておいた結い紐を使った。
解けた髪から水滴が落ちてぽたぽたと林冲の腹から下のあたりに落ちていった。

「何をする気だ」
「お前が是と言うまで責めさせてもらう」
「な、やめろ、公孫勝ッ……狡、あ、あッ…あっ、あ!」

既に膨れ上がった自身をきつく扱く。蜜は溢れるが、達する事は出来ない。
浮き上がる腰を抑えつけて、執拗に扱いた。

「くうっ、あッ、解け!卑怯にも程がある……、んッ!」
「純粋に力比べをしたら負けるからな。策とでも思え」

扱くのは止めず、裏筋を舌で押し上げるようになぞる。びく、びく、と体が跳ねた。

「ああっ!ぐっ、うああッ!!」

どうやら、林冲は空の絶頂を向かえたらしい。手が伸ばされたが、暗闇のせいで空を切った。

「公孫勝ッ、……ほどけ!!」

体重で押さえ付けている林冲の足が、擦り合わせるように動く。余裕がなくなっているな、と感じた。
堪える、という点に置いて精神力のある林冲に根を上げさせる事は難しい。
手を抜けば機会は遠退くだろう。
そう思ったから、林冲の自身を、私の口に入れた。

「何を……ッ、や、やめろ!離せ、離っ…ああッ、あ、ッ…ひっ」

達したすぐ後、まだ敏感な所を責められるのが辛いだろう。
空の絶頂である分、萎える事なく勃ちあがったままなら尚更だ。
少し歯をたてる位の、強めの愛撫。達する事を促すように蜜の出ている所を舌で執拗に嬲った。

「あぁっ、ほど…け、…こう、そんしょッ、ほど……けッ!!」
「是と」
「誰が、言うか!ほどけ……ッあ、あぁッ、はや…く!ぁっ、はやく、しろッ!」

顔の前に気配を感じて見れば、林冲の手が戒めていた紐に辿りついていた。

(この強情さには舌を巻く)

小さく溜息をついて、悪戯を少し変える事にした。
もたもたと紐を解くために苦心する手に私の手を沿えて、強引に扱く。数度繰り返せば、紐に集中する事は出来なくなるだろう。

「触る、なッ……!あッ、いやだ、やめ…ろッ!もう、いかせてくれッ!」

切羽詰まった掠れ声。上擦ったせいで所々裏返っている。そろそろ、潮時か。

「では是と」
「言う気は、ッ、…ない」
「……そうか」
「な、ひッ!あぁッ!」

聞き覚えのある言い回しに林冲が疑う間もなく、手早く紐を解いて指で輪を作り、自身を追い詰めた。

「では、今達したら私が入れる方と言う事にしようか」
「ッ!公孫勝!うっ、やめッ、……触るな、あぁッ、ぁぁああああッ!」

がくん、と林冲の体が派手に跳ねた。
びく、びく、と痙攣を起こすように揺れる。私の手には、生暖かい粘質の液が飛んだ。
指についたそれを舐めとりながら、私はにやりと口角をあげた。
林冲は呼吸を調えるのに必死で、悪態をつつく暇もない。悪戯は、成功した。


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