三成はすたすたと陣から遠ざかり、灯もぎりぎり届くか届かないかの所まで来て止まった。
なに、俺ヤキいれられるの?


「さっきの事」
「え?」
「絶対左近に言うな」


唖然。

まさかそれだけのためにここまで連れ出したのか?
ってかわざわざ言うわけないだろうが。


「と言うのは冗談でな」


まぁ、まんまとはまってくれた訳だが…と肩を揺らせて笑う。
こいつ…本当に、性悪だ。


「からかうだけなら帰るぜ」
「まぁ待て、本題はある」


なら先に言え。
下らない事で俺をからかうな!


「孫市、率直に言うとお前はこの西軍の中で浮いている。異質の存在だ…と俺は思っている。」
「…何が言いたい」
「これから天下をかけての大戦をする上で、そう言った不確定要素があるのは困る」


俺が、不確定要素?
ふざけるな。


「俺は秀吉の世を取り戻したいだけだ、お前さん達と何が違う」
「秀吉様の世を…戻す?」
「皆が笑って暮らせる世。一度出来上がったそれを壊したのは誰だ」


あぁ、怒りが沸いて来る。
秀吉が、あの清々しい程前向きで頼もしいあいつがいてくれたら。


「壊した者などいない、綻んだだけだ」
「あいつの世が綻んだだと!?」


思わず三成につかみ掛かる。
見下ろした三成の顔はそれでも動じず、静かだった。


「秀吉様は俺も好いていた。だが急いて天下を取ろうと数で推したせいで、すぐに綻んだ…それは認めるしかないだろう」
「…っ」


手を離して顔を逸らせる。
頭の中から感情がわき出て来て言葉にならない。
秀吉を侮辱するな。


「つまり孫市、お前は一人過去に囚われている。
だから浮いているんだ」
「なら、何だ。俺にここを去れとでも言うか」


ぎろりと三成み睨み付ける。
火縄を置いて来た事を惜しくさえ思う。


「そう、怒るな。
何度も言うが、俺は秀吉様を侮辱する気など一切ない。
恩人だとも、父だとも思った事さえある」
「じゃあ、何故…」


何故秀吉の創った世を否定するんだ。


「事実を認める目を曇らせていては戦など勝てはしない…と、ただそう言いたかっただけだ」


至って冷静にそう言った後、三成は俺の元を去った。
動く気になれなった俺は近くにあった紅葉の木の下に蹲る。


“秀吉、俺はどうすれば良い?”


風が虚しく吹き付ける。


“なんで…なんでお前は俺を置いて行ったんだ”


空を見上げてもあの青空はない。漆黒は冷たく俺を押し返す。


“お前なら、どうして欲しい?”


俺が戦に出る事を喜ぶだろうか?それとも皆が笑って暮らせる世を壊した事に悲しむだろうか。


“答えて…くれよ”


死人に……口なし。
相変わらず空は俺を拒絶し、地は俺を異質とした。
志を同じくしたと思っていた奴らに違う、と断られて…俺は一体何をするつもりなんだか分からなくなる。


“秀吉、お前の世は間違ってなかったよな?”


少なくともお前が生きて居る間は、世は泰平だった。
死して狂ったんだ……誰が狂わせた?
考えても思い付かない、該当者が多過ぎる。
そしてそれは、俺自身を敵に回す事。

また居場所がなくなった。

居場所のない寂しさ、悲しさ、それは良く知っている。
このまま戦を続けてもどんどん追い込まれるだけだ。
それなら






俺は戦う事を放棄しよう




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