「今日は起こされる前に起きたぜ」
「はいはい、分かったから早く準備して下さいよ」


ひょい、と銃弾の入った箱を投げられた。
若太夫は一体いくつなんですか、という呆れ声付で。
昨日思わぬ行事で大量に消費してしまったため、
手持ちが減ってしまったので急いで詰め直している所だ。
蛍はどうやらもう終えたらしく俺のを手伝ってくれている。


“いつやったんだ?”


夕べは珍しく俺の眠りが浅かったから、がたがたすれば起きただろうに。


「はい、よしじゃあ行きますよ!」


意気込んだ蛍と連れ立って、本陣に集まる。
蛍に急かされたせいか、割と早くついてしまった。


「早過ぎだよな」
「早いなら良いじゃないですか。大は小を兼ねる、みたいなもんですよ」
「時に大も小もねぇだろ」


「ははっ、面白いねぇ」


大きな声に二人して驚いて振り返れば、松風に乗った慶次がいた。


「そう言う積極的な物の考え方、俺も好きだね」


えっと…どうも、と会釈する蛍に向かって慶次は快活に笑ってみせた。
それで昨日の事を思いだす。


「慶次、お前さんなんで昨日俺を…」


手で会話を差し止められる。


「……あんた、誰?」


隣りの蛍が思わず吹き出した。
そんな蛍を小突いてから慶次の真正面にたつ。


「覚えてないのかよ」
「…興味ないとすぐに忘れるたちでね」
「孫市だ、さ い か ま ご い ち!昨日舞ってたのが俺!」


俺の顔は真っ赤なんだろう。
だって忘れてるって…そんな事有り得るものなのか!?


「あー…あれ、あんただったのか」
「あんただったのかって…その後しっかり目ぇあった上に睨んだだろうが!」


自分の歯ぎしりの音が聞こえる。本当に調子を狂わせる奴。


「…目があった覚えなんかないんだがねぇ?」
「嘘つけ、だって…


「孫市」


初めて名を呼ばれて何かが心臓にじくりと滲み渡る。
本能的警戒心?
本当に獣だな。




「…あんた、少し自意識過剰なんじゃないかい?」




そう吐き捨てるように言うと俺の目の前を松風で去って行った。
ふざけんな、絶対目ぇあっただろ。しかも睨んだだろ。
何なんだあいつは!
ますます分からなくなって胸のむかつきは増すばかりだ。





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